古代君と雪

2202幕開け前のお話です。クリスマスイブを過ごす恋人たち。

※ようこん様の素敵なイラストを拝見して浮かんだお話です^^ →クリスマスプレゼントはコチラ

 

 

(2202)「真砂なす数なき星の其中に吾に向ひて光る星あり」

 

 

 

…『俺だ』

…『古代君?』

…『そっちは真夜中だよな、ごめん、遅い時間に』

…『何かあったの?きっと悪いニュースね』

…『いや、奇跡が起きた』

…『奇跡?』

…『地球連邦防衛軍から一時帰還命令を受けたんだ。出頭日は1224日』

…『本当に…?だってクリスマスイブよ、信じられないわ』

…『万にひとつの可能性もないって話したけど、帰れるよ、地球に』

…『嬉しい…。明日すぐに古代君の好きなお店にディナーの予約入れるわ。戻りはいつなの?』

…『26日。補給物資を積み込んだらすぐに戻る。悪い、とんぼ返りで』

…『たった三日でも、私は十分幸せよ』

…『ありがとう、雪。…おやすみ』

…『おやすみなさい』

 

通話記録を眺めるとたった1分ほどだったが雪との会話は古代の心を和ませた。もちろん今は戦時下ではなく平時で、恋人との逢瀬に一分一秒を賭ける必要はないのだと分かっていても古代は雪の笑顔が見たかった。

 

「悪いニュースか」

 

そう古代に訊ねた雪の気持ちもよく理解できる。深夜通信の呼び出しで良いニュースだった記憶は古代にもない。第二護衛艦隊が地球より緊急電を受け取ったのはつい30分ほど前だったのだが、そこに所属する駆逐艦ゆうなぎ単艦での地球帰投という命令に古代自身も意表を突かれた。資源物資の輸送船団を数隻の戦艦で護衛する任務は長距離の航海となるため地球への上陸休暇などここ半年も取れていなかったからだ。

 

命令書の署名は土方司令。

…娘同様に育てている雪への親心なのかもしれないな、と古代は考えつつ、いつも眼光鋭い土方の顔を思い浮かべた。

 

しかし、それだけだろうか。雪の婚約者だというだけで自分が優遇されたのだとしたら、今の古代が置かれている状況は屈辱とは言わないが、酷すぎる。ヤマトの乗組員たちは全てバラバラに配置転換され、集団行動ができないようにさせられていた。喜ばしいイスカンダルから地球への帰還日は同時に沖田艦長の亡くなった日でもあり、元乗組員たちも弔いの為に集まりたかったのだがそれすらも地球から遠方勤務の者も多く、実現できないでいる。

 

「古代艦長、愛しい雪さんへの通信、終わりましたか?」

 

ヒョイと背後から身を覗かせた相原に声をかけられた古代は、照れを隠して「バカ言え」と口にしながら立ち上がった。ほとんどの乗組員がバラバラになったが、古代と相原は他部署を経由して一年ほど前、偶然同じ護衛艦に配属になった。

 

「長距離通信の、しかも個人の携帯端末へダイレクト通信が出来るって、普通無理だろ。お前もこういう時だけは役に立つんだな」

 

「こういう時だけとは失礼な!まあでも昔、実家の様子が気になっていろいろな民間のハブを経由して母さんと連絡できたときの経験が役に立ちました。あの頃、母さんは足が悪くて連邦宇宙軍の施設に来ることも出来ませんでしたから」

 

「イスカンダルか、もうあれから二年以上経つんだな」

 

「ところで急な帰投命令って何でしょうね。古代さん、心当たり、ありますか?っていうか、アレですかね、やっぱり」

 

古代は相原を伴って長距離通信室を出て居住区へ向かう。

 

心当たり…。

 

「俺達が報告した傍受通信のデータと筋状の光のことで何かお咎めでも受けるのかもしれんな」

 

「古代さんが余計なこと言うから…」

 

「何が余計なことだ。地球にいる奴は皆浮かれすぎなんだよ。警告して何が悪い」

 

相原が傍受した謎の通信メッセージと、その発信元を探るべく望遠レーダーで天球を拡大投影していた時に古代が見た筋状の光のことは既に地球連邦防衛軍に報告してある。メッセージは護衛艦の解析機材では音声として認識できなかったため内容は不明。データとして真田に送ってあった。それが二週間ほど前のことだ。相原は異星人との通信経験も豊富なためガーガーピーピー言うだけの通信の波を何かの音声だとカンが働いたのかもしれない。護衛艦隊の他の艦でも傍受はしていたが、それを解析しようとすらしていなかった。

 

そして、尾を引く筋状の光を、古代は一瞬、目で捉えた。

 

「あまり良い言い伝えのないハレー彗星ですけど、ベツレヘムの星だという解釈もあるんですよ、アシモフによれば」

 

「何だ、それは」

 

「戦場のメリー・クリスマスです」

 

相原が説明するには、イエス・キリストが誕生した時に輝いた星の光のことだという。東方の三賢者がその光に導かれて生誕の地に辿り着いたとされているが、その光にはいろいろな解釈が存在している。そのひとつにハレー彗星説があるのだそうだ。

 

「クリスマスが近づいて来るからハレー彗星が見えたとでも?そんな説上層部のお偉いさんたちに言ってみろ、めでたい奴だと左遷されるぜ」

 

「でも地球に一時帰投できるんですよ、僕はクリスマスプレゼントだと思いますけどね」

 

「違う。そういうのは貧乏くじを引いたっていうんだ」

 

「ここから輸送船団はまだまだ銀河系の中心部に向かって進んでいくところなんですよ?まだここからなら数週間のワープで地球に戻れるんです。しかも雪さんも泣いて喜ぶクリスマスに逢えるんじゃないですか!何が不満だっていうんです?」

 

「分かったから大きな声を出すな、皆眠っている時間だ」

 

既に二交代制の航海士には地球反転を命じてある。メインクルーが勤務に就く朝が来たら地球帰投のことを話さなければ、と考えながら古代は自室の扉を開けた。

 

 

 

…「古代進、入ります」

 

秘書から促された古代が入室するとそこには藤堂長官と土方司令、そして真田がソファに座っていた。真田が横に座れと合図するので古代はそれに従い腰を下ろす。

 

「久しぶりだな、古代。元気にやっておるかね」

 

「藤堂長官、ご無沙汰しております」

 

「古代、今日ここへ来てもらったのはお前から受け取った通信の解析が終わったことを報告したかったからだ」

 

真田はタブレットを指で操作して音声を再生させる。

 

『イマ…ワタシタチノ…キキガ…イッコクモハヤク…ダレカ…タチアガッテ…』

 

女性の声で危機が迫っていると、誰か立ち上がれと告げているようだ。

 

「真田さん、これは…!」

 

「内容を聞いた訳でもないのにお前は危険を察知した。確認したら他の輸送船や護衛艦でも同じような通信を受けた形跡があったが、ただの通信障害だとしか処理していなかったよ」

 

「宇宙のどこかに危険が迫っているのではありませんか」

 

「だとしても遥か彼方の星の話だ」

 

真田がそういう発言をするとは思わなかった古代は虚を突かれたように一瞬言葉を失った。

 

「場所は分かったんですか?あの尾を引く筋状の光と何か関係はありませんか」

 

「エリアは特定できるがどの惑星からかというところは不明だ。そしてお前が見たという尾を引く筋状の光は今日の夕方、つい先ほどだが、見失った」

 

「見失った?」

 

「ああ、燃え尽きたのかもしれんな。もしくは発光に影響する太陽圏から遠ざかったのかは知らんが、突然、追っていた望遠レンズから消えてしまったのだ」

 

「そうですか…。その光を追えという命令でも下されるわけではなさそうですね。私を今日、こちらへ呼び戻したのは何故ですか?理由をお聞かせ願います、藤堂長官」

 

言葉を交わす古代と真田と対照的に土方は腕を組んで目を閉じているだけだ。だから古代は藤堂に訊ねてみた。

 

「防衛会議にかけるにはまだ内容が不十分であることは君も承知してくれるね。現在の軍拡路線に君が危機感を抱いていることも私は知っている。君を防衛軍の中核に置かないのは沖田とスターシアが取り決めた波動砲の封印を守っているからだ。…知っての通り、新造艦アンドロメダには拡散波動砲を搭載してある。いざとなれば我々はそれを使わざる負えない。だからそれを快く思わない君たち旧ヤマト乗組員たちを地球防衛の要に使うことが出来ないのだ。…しかし、皮肉にも、危機を察知する力は君たちの方が上だったようだがね」

 

はっきりとそうだと言われたことはなかったが、古代も薄々そういうことだろうとは察しがついていた。…これで引導を渡されたという訳か…。

 

「わざわざ私を地球に呼び戻してまで解析結果を伝えていただく必要もなかったように思いますが、教えていただき感謝いたします。ひとつ、これだけは約束していただけませんか。その声のメッセージの主とコンタクトする努力を続けてほしいということと、消えた光が再び出現してきたときの対処を、お願いしたいのです」

 

「それは真田君に引き続き依頼することを約束しよう」

 

「では私はこれで失礼します」

 

そう古代が口にして退出しようとすると土方は突然目を開けて立ち上がり、古代の腕を掴むようにしてドアの外に一緒に出てきた。そのまま廊下を引きずるように歩いていく。

 

「あの…これは」

 

「真田君も君たちと同じ被害者だ、恨むなよ。平和と繁栄を享受している今の地球で声高に宇宙の危機を語ることは許されていないのだ」

 

「土方司令…。私を呼び戻したのはあなたの仕業ですか?」

 

「可愛い娘同様に暮らしている君の婚約者が毎晩夜中にベランダから星を眺めてはため息をついている姿に親代わりとしてできる限りのことをしてやったまでだ。二年も待たせたんだ、そろそろプロポーズしてくれるんだろうな、古代」

 

「…ご配慮、感謝します」

 

「もし万が一、雪と結婚しても、決して私をお義父さんとは呼ぶなよ、古代」

 

古代の腕を離すとニヤリと笑った土方は立ち去って行った。…ここは、どこだ?

見上げたプレートには『地球防衛司令部・中央指揮所』とある。

 

「…古代君?」

 

振り返ると制服姿の雪が目を丸くして立っていた。

 

 

 

「仕事もういいの?」

 

「今日は早番にしてもらったから定時で上がれるの。古代君こそ呼び出しって何だったの?」

 

「特に進展はなかったよ。指揮系統のあれこれっていうか、報告した事項への査問というか、はっきり言うと、土方司令の親心だったみたいだ」

 

「土方のおじ様の?何かしら…。え?まさか私の為に古代君を呼び戻してくれたって言うの!?」

 

「それも一部だけど、間違ってないよ。さっき長官室で逢ったんだ。雪がいつもベランダから夜空を眺めて涙を流しているって」

 

「まあ!私そんなにか弱い女じゃありません」

 

「でも、ため息はついてくれていたんだろ?俺のために」

 

「それはそうだけど…もう、イジワル…」

 

街を彩るイルミネーションのように頬を染める恋人も可愛らしい。

 

 

宇宙の危機を知らせてくれる存在のことはきちんと地球連邦防衛軍に報告してあるし、ガミラス以上の敵と戦える戦艦を持たない古代にはそのメッセージの主のところまで辿り着き異星人と戦うだけの力もない。もしも自分がヤマトに乗っていれば…。そう考えても今は遠くにある。それに漠然とした不安を雪に知って欲しくはない。彼女との未来に、戦いが遠いものでありますようにと古代も願わずにはいられなかった。誰もが自分のことだけで精一杯盲目に生きている。ならば古代にもせめて片目をつぶる時間があってもいいのではないのか…。

 

 

雪が古代のために予約してくれたイタリアンレストランはメトロポリスの中心にあった。古代はここのラグーソースのパスタが大好物だ。

 

「満席じゃないか。よく予約取れたね」

 

「ここ、藤堂長官もお好きでよく使われているの。お願いしてお名前をお借りしたのよ。いつVIPが来店してもいいようにどんなに予約でいっぱいの日でも必ず1テーブルは空けてあるものなんですって」

 

「うわぁ、だからこんなに奥まった眺めのいい一等席なのか」

 

注がれるシャンパングラスを持つ手が軽く震える。

 

「クリスマスイブは家族と自宅で過ごす人も多いからもっと空いているのかと思ったんだけど、恋人同士かご夫婦かわからないけど、カップルが多いわね」

 

「俺達だって、正真正銘の恋人同士だよ。き、君の瞳に乾杯」

 

「ぷっ!どうしたの、急に。いつもの古代君じゃないみたい」

 

「復興したこのメトロポリスの夜景とサーブされた黄金色のシャンパンを前にしたら何か気の利いたこと言わないといけないだろ」

 

「いけないとは思わないけど、嬉しいわ。古代君の無事の帰還に…乾杯」

 

前菜から始まって、魚料理と肉料理、それからそれぞれ選んだパスタを流れるように食べつくし、あっという間にデザートの時間になった。

 

「見て古代君。きれいな新月」

 

「月までは光の速さでたったの1秒しかかからない」

 

「そうなの?まるで瞬きだわ」

 

「そうだね。…真砂なす数なき星の其中に吾に向ひて光る星あり」

 

「砂粒を散らしたような大宇宙の無数の星の中に、自分に向かって光を放っている星がある…。そんな意味ね。お兄さんの受け売り?」

 

「遺品の中にいくつか作者の違う詩集があってこれもそのひとつだ。好きだったんだろう、線が引いてあってね。繰り返し読んでいたら覚えてしまった。…俺に向かって光を放っている星は君だよ、雪。これを受け取って欲しい」

 

古代はポケットに用意しておいた宝石箱を取り出して一粒ダイヤの指輪を手に取ると、雪の左手の薬指にそっとはめる。うるんだ瞳にメトロポリスの夜景の光が映り込んでまるで星のようだと古代は思った。

 

「今日、こんなことになるとは思わなかったから、私のプレゼントなんか出せなくなっちゃったわ」

 

「雪が選んでくれたものなら何でも嬉しいよ」

 

そう促すと、雪がバックから包みを取り出して渡してくれた。中には真っ赤なマフラー。このラフな手触りはきっと彼女の手編みだ。

 

「ありがとう。これを今すぐ首に巻きたいからそろそろ出ようか」

 

そう古代は告げると素早く会計を済ませて店の外に出た。

 

二年でこんなにも元通り以上に街が復興するものなのかと古代が驚くほどの光が溢れている。再び消してしまうには惜しいと思えるほどの光だ。あの、相原がハレー彗星かもしれないと口にした筋状の光は、クリスマスイブに消えてしまった。古代の追跡を逃れたのか、それとも相原が言った通り何か偉大な力が生まれる予兆なのか、分からない。しかし、愛しい恋人に逢って、気持ちを伝えることが出来たことだけは真実だ。

 

ひとりで巻くには長すぎる赤いマフラーを古代は雪とシェアして、その身体を抱き締める。

 

「堅苦しいレストランで言うより、こうしたかったんだ。…待たせてごめん。俺と、結婚してください」

 

「私が輝いているのならそれは古代君のおかげよ。私があなたの星になるわ」

 

古代がこの星の大多数の人々のように両目を閉じる前に目にした指輪は、イルミネーションの光に反射してまばゆく煌めいていた。

 

 

おわり

 

 

【あとがき】

メリークリスマス!はい、ここから「星になって結婚しよう」という名セリフに繋がっていくんですね(多分違う)。ようこん様のクリスマスのイラストを拝見して思いついたお話でした^^ さらばベースなので先々の悲劇は予兆されつつも、出奔までは幸せな恋人同士だったと思いたい、宇宙愛信奉者なのでした。2202は愛増量中のようですね~楽しみです。